楠木建さんと山口周さんの対談が、
『「仕事ができる」とはどういうことか?』
という宝島社新書にあります。
これがとても興味深く、考えさせられることが多かったので、
簡単にレビューしつつ感想も書き添えておきたいと思います。
同書のスタンス
書店に行くと、本当にたくさんの「仕事ができるようになるためにはどうしたらいいか」
というHow To(ハウツー)本が並んでいますよね。
例えば、こんなような本です。
一方で、この『「仕事ができる」とはどういうことか?』という本では、
仕事ができるようになるための方法論ではなく、
そもそも仕事ができるとはどのような状態なのか
という定義の話を1冊かけて展開していきます。
本書のタイトルは『「仕事ができる」とはどういうことか?』です。
『「仕事ができる」とはどういうことか?』はじめに
「どうしたら仕事ができるようになるか」ではありません。
Howの話はほとんどしていません。
〈中略〉
その代わり、仕事ができるとはどういう「こと」、すなわちWHATについては、さまざまな実例やエピソードを交えてたっぷりと語っています。
「仕事ができないとはどういうことか」という逆側からも突っ込んだ話をします。
実際に、まえがきでも上記のように書かれていますので。
なので、Howを手っ取り早く知ろうと思わずに、
WHAT(仕事ができるとはどういうことか)をじっくり見つめ
それに対してどのようにアプローチしていったらいいかを自分で考えよう
というスタンスで読むのが正解かなと思います。
流れ
目次は、以下の通りです。
第1章 スキル優先、センス劣後の理由
アート派、センス派は“ビルの谷間のラーメン屋”
ビジネスとは問題解決
「役に立つ」はスキル、「意味がある」はセンス
問題は解決すればするほ「量」から「質」にシフトする
「論理」は常に「直観」を必要とする
センスの劣後と日本人の「因果応報」世界観
“直観主義”小林秀雄は批判され、“努力の人”矢吹丈は愛された
弱い人ほど「法則」を求める
「好き嫌い」の問題を「良し悪し」へ強制翻訳
センスにも「序列」をつけたがる日本人
「アスリート型ビジネス」と「アート型ビジネス」
日本でアスリート型ビジネスが優位だった理由
男のマウンティングは「スキル」に収斂する
人事における「コンピテンシー」という概念の誕生第2章 「仕事ができる」とはどういうことか?
労働市場で平均点にお金を払う人はいない
「やってみないとわからない」センスの事後性
勝間和代がブームになった理由
400メートルハードル・為末大に見る「身の置き場所」問題
ユニクロ・柳井正が己の才能に気づいた瞬間
「AC/DC」に見るセンスの不可逆性
センスがない人が出世する組織の不幸
すぐに「分析」する人は仕事ができない
カルロス・ゴーンの勘所
「担当者」と「経営者」の仕事の違い
小林一三とチャーチルのセンス
どこで勝負するかという「土俵感」
センスと意欲のマトリックス
プロのすごみは、やることの「順序」に表れる
原田泳幸の〝アートな〞マクドナルド立て直し第3章 何がセンスを殺すのか
ビジネスパーソンの「エネルギー保存の法則」
「横串おじさん」と位置エネルギーの“魔力”
センスのある人の「仕事は仕事」という割り切り
エリートはなぜ「階層上昇ゲーム」が好きなのか
「ビンタしてから抱きしめる」と「抱きしめてからビンタする」の大きな違い
センスある経営者は「『それでだ』おじさん」
「独自のストーリー」があるから同じものが違って見える
「これからはサブスクだ!」が見落としているもの
元祖“センス派”カール・ワイクの究極セッション
最旬ビジネスワードという“飛び道具”の誘惑
「インサイド・アウト」か「アウトサイド・イン」か
「ネットフリックス」強さの淵源
環境や状況に原因を求める「気象予報士」ビジネスパーソン
「誰か俺を止めてくれ」究極のインサイド・アウト
アムンセンとスコットの違い第4章 センスを磨く
『「仕事ができる」とはどういうことか?』目次
センスの怖さはフィードバックがかからない点
島田紳助の「芸人は努力するな」の意味
「修行」というセンス錬成法
センスとは後天的に習得するもの
ジャパニーズ・ロストアート
日本電産・永守重信の人心掌握力
センスメイキングとは「人間洞察」
データでは見えない人間の「矛盾」
一流の人は「自分が小さい」
センスとは「具体と抽象の往復運動」
「根本的矛盾」を直視する
「抽象的思考」は難しいけど面白い
抽象的な理解ほど実用的で実践的なものはない
どうやって自分の土俵を見極めるか
仕事ができる人は自分の「意志」が先にくる
仕事ができない人の「過剰在庫」
印象に残った箇所
センス>スキル
本の中で一貫して語られ続けているのは、
「センス」こそが仕事ができるための重要な要素だ
ということです。
そして、この「センス」に対立するものとして出てくるのが
「スキル」です。
ついつい私たち人間は、自分が努力をする際に
わかりやすい結果が見える「スキル」を追求してしまう傾向にあると
山口氏、楠木氏は説きます。
楠木「あれができる、これができる」と言っているうちはまだまだなんですよ。それができる人、代わりになる人はいっぱいいる。
『「仕事ができる」とはどういうことか?』P.83~84
〈中略〉
スキル稼業一本槍でいくと、途中まではわりと順調にいけるんですね。
しかし途中で厚い壁にぶち当たる。
当人は「スキルで突破できる」と思っていて、それがその人がスキルを身につける努力をする理由にもなっているのですが、
いつかどこかで「あれ?おかしいなぁ、こんなに頑張っているのに…」ということになる。
↑私も首がもげるほど頷きました。
この、スキル突破が通用しなくなる一つの壁が、
部長レベルから本部長レベルに上がるところあたりに存在しているのではないかというのが
お二人の見解でした。
私自身は、自分で会社を作ったので、この「センスの壁」を破る経験をせずに、
経営陣にいてしまっています。
それに対して、このあたりの文章を読んで、強烈な恐怖感をおぼえました。
スキルはもちろんすごく大切だし、私はそれすらも足りていないのに、
どうやって加えてセンスまで磨いていったらいいんだろうか…
ちょっと無謀なのではないかという気持ちになったのです。。
センスメイキングとは「人間洞察」
もしも、上記の私のように不安な気持ちなった人がいたら、
ぜひ第4章センスを磨くを読んでみてください。
いろいろと自分に取り入れられそうなことがあり、
とても勉強になったのですが、
特に響いたのは人間洞察の重要性です。
山口
『「仕事ができる」とはどういうことか?』P.240~241
<前略>
やっぱりデータだけで「人間」を把握することは難しいんだと思います。
人間というのは部分としては矛盾していたり整合していなかったりするので、
部分の足し上げだけで理解しようとすると
破綻してしまいますからね。
楠木
しかも人間ってそれほど一貫していないものなので、
ますます人間の本性や本能についての洞察が重要になると思うんですよ。
山口
「役に立つ」と言うことで価値を出そうとすればデータとスキルは
とても有用でわかりやすいんですけど、
「意味がある」で価値を出そうとすると
データもスキルも役に立たない。
そこで求められるのは「人間性に対する洞察」で、
これがこれからは競争力の中核になっていくんでしょうね。
この一節を読んで、なるほどそういうことかと、
「センス」の正体が少し腑に落ちました。
ビジネスをしながら、物やデータにだけ向き合うのではなく、
常にその先にある「人間」と人間が構築する「社会」と向き合い続けること。
これこそがセンスを磨く術なのだと思います。
頭を使うこと、想像することを毎日の生活で
真剣にこなすのが大事かなと私は考えました。
気になった方、ぜひ読んでみてください!