記事の要約
インドのピュシュ・ゴヤル(Piyush Goyal)商務大臣は、世界第5位の経済大国となった同国のビジネスをアピールする上で、Appleの参入を成功例として紹介した。
現在Appleは5-7%の製造をインドで行っており、
2025年までに世界中のiPhoneの25%をインドで生産する可能性について言及した。
またゴヤル大臣だけでなく、投資銀行JP Morganのアナリストも、昨年9月に発表した投資家向けのレポートでAppleが2025年までに世界中のiPhoneの25%をインドで生産する可能性があると述べており、期待が高まっている。
台湾の鴻海精密工業はチェンナイの郊外に工場を設立し、
iPhoneを製造している。
インドのスマホ市場ではAppleのシェアは5%ほどに留まっており、さらなるシェア拡大を目論んだ動きとも言われている。
iPhone を生産している企業は?なぜ中国に立地している?
iPhoneの組立は、OEM(original equipment manufacturer)という相手先ブランドでの製品製造という形で、主に台湾の企業が担っている。
iPhoneの7割近くを鴻海精密工業、2-3割近くをペガトロン で生産していると言われている。
鴻海精密工業はスマホや薄型テレビなどの電子機器を受託生産するEMS (Electronics Manufacturing Service) 企業の世界最大手。2016年にシャープを買収したことで有名になった。Appleの他にもDellやソニーの製品製造を引き受けている。
ペガトロンは 2007 年に台湾の電子機器メーカーである ASUS(エイスース)の製造部門から独立して設立され、他ブランドのパソコンなど電子製品を製造している。
鴻海精密工業は台湾本土ではなく中国に製造工場の多くを設置しており、
iPhoneの世界最大の生産拠点があるのは河南省鄭州市の工場。
平常時では20万人もの従業員がiPhone生産に従事していると言われている。
コロナ蔓延により鄭州市がロックダウンとなった際には、生産ペースが大きく落ち込み、
出荷台数が1000 – 1500万台の減少に繋がったと予想される。
iPhone1台が大体15万円ほどと仮定すると、およそ 2兆円の売上減、ということになる。
(Appleの昨年度の売上高は3,943億ドル、1ドル = 130円換算で大体50兆円)
昨今のロックダウンや従業員の抗議デモ、サプライチェーンの混乱などの影響を鑑み、
今回記事になったようなインドのような国での生産拡大が加速すると見られている。
ただし、中国から生産拠点を完全に移転するのではなく、
部分的に生産拠点を分散化したいという意図だろう。
中国以外での生産拠点の確保には相応の時間がかかり、実現するかも確実ではない。
あるCNNの記事では、サプライチェーンマネジメントを専門とする教授のコメントが含まれている。
中国は他国と比較して、下記のような魅力を兼ね備える点で優位性がある。
- 部品調達の利便性、サプライチェーンを支える企業の裾野の広さ
- 安価かつ大量の労働力
- 大規模な工場・働く従業員の住まいを併せて建設できる巨大な土地へのアクセス
中国と同規模の人口を誇るインドであれば、安価で高度な技術を持つエンジニアを多く雇用できるが、
組立や関連部品の工場を新たに建てるための広大な土地が限られる。
中国は共産党による一党支配であり、経済的意義が認められる場合の土地の収用が比較的容易だ。
ベトナムは人口1億人弱と中国・インドの13億強にはとても及ばず、同じく土地も限られる。
また、生産拠点の完全移転が現実的でない理由の一つとして、
Appleにとって中国は非常に魅力的なマーケットであることが挙げられる。
昨年度、中国での売上は全体の20%を占めた。
GAFAのうち、Apple以外のGoogle, Meta, Amazonは中国に参入していない現状を踏まえると、
現在の地位を手放すのは非常に慎重になることがよくわかる。
感想・まとめ
改めて、中国は自国が持つ地理的・政治的な強みを活かして世界有数の工業国として君臨しているのだなと感じた。
地理的な強みとしては、まずは世界4位の面積に加えて、鉱物資源にも恵まれている点。スマホや自動車を製造する上で必要な資源から、部品製造・組立工場を建てる面積までが一つの国で完結してしまう。
政治的な強みとしては、スマホや自動車など重要分野として位置付けられた領域においては、徹底的に強化を行い施策を推進するスピード感などが挙げられる。
ただし、共産党が過度に介入することで企業の健全な運営が損なわれるリスク(政治リスク)が常にあることに加え、
半導体などを巡る米国との貿易摩擦は強まる一方で、
非常に難しいマーケットであるのも事実である。
また一時は世界一であった人口も直近で減少に転じ、
人口増加を元にした成長には高止まりが見られそうである。
上述のようなリスクを抱えつつも、
安価かつ高度な労働力、広大な土地、サプライチェーンの充実度、といった中国が持つ魅力は代替性がなく、
多くの企業が引き続き中国での製造を続けるのだろう。